【課題研究】の授業について

商業科では、3年次に下記の3つの分野から自由にテーマを設定し、調査・研究を行う課題研究の授業を行っています。

《経済・社会・商業等に関する知識の修得及び研究》

《情報処理活用能力に関する専門知識の修得及び研究》

《簿記会計および商業実務に関する専門知識の修得及び研究》

この授業は、課題解決を図る学習を通して、専門的な知識と技術の深化、総合化を図り、更に問題解決の能力や自発的・創造的な学習態度を身に付けることを目標としています。

 

以下の作品は、令和元年度富山県商業研究クラブ発表会において、3年商業科5名の生徒の研究発表である。

 

生徒研究作品
『Reduce Food Loss ~わが町から考えるCSR活動~』

私たちは、昨年度の先輩方の研究を引き継ぎ、社会問題となっている食品ロスの課題に対して、調査・研究を行った。

「食品ロス」とは、食べられるのに捨てられてしまう食品のこと。たとえば、売れ残りや期限切れ食品、食べ残しなどがある。家庭においても、うっかり出してしまう冷蔵庫内の期限切れ食品や作りすぎによる廃棄なども食品ロスに含まれる。このような問題は、経済の発展にともなう贅沢志向が原因となり、増加傾向にある。

 

〔日本の現状〕

食べられるのに処分されてしまっている量は食品関連事業者から352万トン、一般家庭から291万トンである。(農林水産省 平成31年4月時点)合わせて643万トンの食品ロスとは、新聞やテレビなどでも報じられているように、世界の食糧援助量(320万トン)の約2倍に相当する量である。各国が国連を通して援助されている食糧総量の2倍もの量を日本人は捨てているということである。また、食品廃棄物(魚の骨や果物の種などの食べられないものを含めた場合)の量としては世界でワースト6位という状況である。

農林水産省では平成24年から「商慣習検討ワーキングチーム」を設置し、日本独自の商慣習の見直しを図る。代表的な例として、日本の食品業界には「3分の1ルール」という商習慣が存在する。3分の1ルールとは納品期限が賞味期限の3分の1以内とするものである。例えば、賞味期限が1月1日から6月30日の6カ月の場合、最初の3分の1の期間、つまり1月1日から2月28日までに卸売りから小売りに売らなければならない。本来まだ食べられる食品が納品期限の一日を過ぎただけで、無駄に捨てられるといった問題も起きており、納品期限を過ぎた食品は小売店から拒否されるので廃棄、販売期限を過ぎたものは店頭から撤去されて廃棄されてしまうのが現状である。そのため今後は、新たに2分の1ルールという新しいルールが導入され、3分の1から2分の1にすることで廃棄の量が6割減らせると言われている。2分の1ルールに変更されると、卸売りは賞味期限の2分の1の期間、つまり1月1日から3月31日までと1カ月延びるので卸売りは納期期限に余裕ができ、売れなくて廃棄になってしまう量が削減するのである。また、今年の4月に農林水産省から賞味期限の表示に関わる是正の発表がされた。賞味期限が3か月を超える食品には年月表示変更するという内容である。年月表示にすることで、廃棄物の削減を目指そうとするものである。しかし、2分の1ルールへの是正以前から、食品ロス削減への取り組みはビジネスとして動き出している。例えば、都市部を中心としたフードバンクシステムや商慣習により廃棄となってしまう商品を集めたアウトレット販売である。都市部では需要量と供給量が多いため、このようなシステムがビジネスとして成立しているのである。

 

〔富山県の現状〕

日本全体の食品ロスの内訳として、事業系55%、家庭系45%となっており、事業系の方がやや割合として大きい。すべての都道府県がこの割合に当てはまるわけではなく、繁華街やオフィス街などが栄えており、人が集まりやすい都市部では飲食店の数も多いため、事業系の割合が多くなる。一方、富山県では年間4万3千トンの廃棄量のうち、事業系から1万6千トン(37%)、家庭系から2万7千トン(63%)と、大幅に家庭系廃棄物の割合が大きい。

富山県では、平成29年5月から『とやま食ロスゼロ作戦』が実施されている。消費者と事業者が力を合わせて食品ロスをかしこく減らそうという取り組みである。コンセプトは「使いきり・食べきり・すっきり・エコライフ」としている。具体的には、富山県の立山の標高3,015mにちなんだ、「使いきり3015」運動と「食べきり3015」運動である。「使い切り3015」とは、毎月15日と30日に家庭の冷蔵庫を確認して賞味期限の近いものはないか探そうという運動である。「食べきり3015」とは、大勢で行う宴会などにおいて乾杯後30分とお開き15分前は自分の席に座って料理を楽しもうという啓蒙活動である。

 

〔小矢部市の現状〕

小矢部市の食品廃棄量の詳しいデータは得られていないが、富山市や高岡市と比べると飲食店などの事業系が少ないため、割合としては、「富山県の割合に近い」、またはそれよりも「家庭系の割合が高い」と予想される。いずれにしても、家庭系廃棄物が多いことは十分に予想される。その中で、どのような取り組みが行われているか調査を実施した。取材協力をお願いしたのは、農業分野から農業法人 金屋本江アイリスファームさん、卸売業分野からいなば農業協同組合さん、小売業分野から株式会社Aコープ小矢部さん、飲食業分野から旬菜酒楽美よしさん。

まず初めにお伺いしたのは、いなば農業協同組合さん。小矢部では6次産業化が主流であると教えていただいた。6次産業とは生産物の価値を上げるため、農林漁業者が生産だけでなく、食品加工の2次産業、流通・販売の3次産業にも取り組み、それによって経済を豊かにしていこうとするものである。6次産業という言葉の6は、1つの企業の中で1次産業だけでなく、2次産業・3次産業を取り込むことから、“1次産業×2次産業×3次産業”のかけ算の6を意味している。例えば、りんごであればリンゴジュースに加工され、ハトムギはハトムギ茶に加工されている。農協の仕事は、収穫されたものを大口で買い取り、小売業者へ販売する。その中では食品ロスというものは発生しにくい。食品ロスや廃棄物が発生する可能性は、規格外やキズものなどの出荷できない場合に限るのではないか。しかし小矢部は6次産業化が主流なので、規格外やキズものなども加工食品として無駄なく活用しているのではないか。という見解であった。

次にお伺いしたのは、金屋本江アイリスファームさん。生産の現状として、食品ロスはほとんど出ていないということであった。農協に出荷する際に通常であれば規格外などで引き取ってもらえないものが発生する。またスーパーで見る1玉販売用のキャベツなどの野菜は見た目や色なども重要であるため廃棄物が出る可能性が高い。しかし、小矢部の農産物でスーパーで1玉販売という形をとっている生産者さんはなかなかおらず、加工用として出荷することでその問題は解決されるそうだ。例えば、キャベツであれば1玉販売用ではなく、加工用(千切りやぶつ切りにしてスーパーで販売されているものなど)として出荷するということである。トマトであれば、良い形や色のものはそのまま引き取ってもらい、それ以外は自家加工としてケチャップやジュースなどにして無駄を出さない。このような取り組みは、自然被害などによる影響が出やすい生産業者として企業経営の重要な考え方、リスクマネジメントとして必要な部分であると教えていただいた。

次にお伺いしたのは、飲食業分野から旬菜酒楽 美よしさん。主として宴会場、居酒屋を営んでおられるお店である。現状では、お客さんの食べ残しによっての食品ロスが主となっているそうで、約50人の宴会であれば、通常のごみ袋に約半分ほどの食品ロスが出る。その中でも揚げ物が特に多いという傾向がある。大人の男性の場合、食べずに飲む人が多く、揚げ物は敬遠されがちであるため残ってしまうのではないかという。その対策として、富山県として実施している「食べきり3015」運動を推奨している。3年前から小矢部市が作成した3015運動のコースターを使用しており、年々食べ残しは少しずつ減少している。宴会の幹事によっては、宴会中にコースターの存在に触れ、席に座って食べてくださいと呼びかける場合もあるという。しかしほとんどの場合は、宴会の雰囲気を崩さないように従来通りのスタイルのままであるという。お店側の工夫としては、食品ロスが出ないような提供の仕方である。お客さんの性別や世代によって、提供する量や料理の工夫をされているという。

最後にお伺いしたのは、株式会社Aコープ小矢部さん。Aコープでは1日の食品ロスは約1~2万円である。その内訳は1位惣菜約5千~6千円、2位お寿司約3千円~4千円、3位刺身約3千円。惣菜は作ってしまうとその日のうちに売らなければならないため、自然とロスが増えてしまうと考えられる。対策として、賞味・消費期限が近い商品は、お客さんの目につきやすいところにワゴンにまとめ、配置することで食品ロス削減につなげている。また、今日中に売らなければいけない商品は夕方から2割引きシール、閉店1時間前から半額シールを貼ることで売れ残りを防ぐようにしているという。

 

〔考察〕

生産者としての6次産業化は自然相手の仕事であるため、経営の多角化を図り、安定と収益確保のため必要不可欠な手段であることが分かった。同時にその取り組みが、廃棄物の減少へと繋がっていることも知ることができた。飲食業では、作る際に工夫を凝らしてはいるが、食べ残しは以前と変わらないのが現状であり、食品ロスが発生していることが理解できた。小売業としても、売れ残りは直接損失に繋がるため、値引きやタイムセール、生鮮食品の加工販売などに取り組んでいることが分かった。

以上の調査から、生産者や卸売業者は経営目標の中で食品廃棄や食品ロスを意識して取り組みをしているわけではないが、結果として廃棄物を出さない現状に繋がっていることが分かった。すなわち、経営安定のための多角化戦略が、結果として廃棄物ゼロに繋がっているということである。では一方で小売業者や飲食業どうだろうか。小売業者はコストカットを目的とした販売戦略、飲食業では、お店なりの工夫に合わせてお客さんに意識してもらうための啓蒙活動。ロス削減に繋がりそうな取り組みではあるものの、なかなか成果が出ていないのが現状である。

私たちは、この原因は冒頭でも述べたように、贅沢志向が抜けきれない消費者にあると考える。生産者や卸売業者の取引形態はBtoBであり、相手は企業である。企業経営の中で無駄を無くすこと、コストを減らすことは必要不可欠な考え方である。生産者でいう無駄とは、せっかく作ったものを捨てる、安売りするということであり、その対策としての加工販売ではないだろうか。6次産業化は、企業同士がWin‐Winの関係を築くために、工夫を凝らしながら自然と構築されてきたものであると考える。一方で小売業者(飲食業)の取引形態はBtoCであり、相手は消費者である。生産者-卸売業者-小売業者という流通経路が実現した無駄のない食品リレーを、消費者は簡単に残したり捨てたりしてしまうのである。経済活動の最終に位置する消費者が適切な消費活動を行うことは重要な仕事であると私たちは考えた。食品ロスや廃棄物の問題は「もったいない」という感覚があれば、最低限に抑えることができる問題である。お客様感覚が抜けきれない消費者が「もったいない」という感覚を取り戻すことが、食品ロスを改善方向に向かわせる第一歩であると考えた。

 

〔私たちの取り組み〕

富山県の特徴である家庭系廃棄物削減を目指し、消費者に対しての啓蒙活動を実施することにした。賞味期限の短い食品で捨てられてしまうことが多い食品や、野菜の皮などの捨てられてしまう食材を使用したミニレシピの考案を行い、実際の小売店舗において消費者の方々に呼びかけ活動をするものである。ミニレシピを作るための情報収集として、本校商業科の生徒120名の保護者を対象にアンケート調査を行った。下表はその調査結果である。

質問 回答
期限切れ等で捨ててしまうことはありますか? よくある : 9%

たまにある:80%

ない   :11%

商品を選ぶ際に賞味期限を気にしますか? 気にせずに購入する: 6%

短いものを購入する: 4%

長いものを購入する:90%

食品を捨ててしまう時はどのような気持ちですか? 次からは工夫したい:62%

仕方がない    :38%

外食をした時に、残してしまうことがありますか? 残すことがある:16%

すべて食べきる:84%

よく捨ててしまう食材を使用したレシピがあったら実践してみたいですか? はい :88%

いいえ:12%

賞味期限が切れてしまい捨ててしまうことがある人が大多数である点や、商品を選ぶ際に賞味期限の長いものを選ぶ人が90%である点などは、直接的に食品ロスに繋がっている要因であると感じた。また、捨ててしまう時はどのような気持ちであるかの質問に対して、仕方がないと感じている人が38%である点については“もったいない”という意識が薄れ、捨てることへの抵抗が弱いことが感じとれる。今回のミニレシピ考案と呼びかけ活動を通して、捨てているものがおいしく食べることができるという発見に加えて、食品ロスという問題は消費者意識で改善することができるということを伝えることが重要であると考えた。

 

〔考案レシピ〕
商業科生徒がおすすめする『ロスメシ』レシピ

① レンチン☆簡単スープ

② 野菜ゴロゴロチーズ焼き

③ 大根の葉ナムル

④ 栄養満点!タルタルソース

⑤ 野菜の皮入り鶏つみれ

⑥ 恵方巻ビビンバ

⑦ 野菜の皮入りミルフィーユ鍋

⑧ ロスなし餅巾着

⑨ みかんの皮入り餃子